DataRobot で生損保業界のお客様を担当している AI サクセスマネージャーの平田です。多くの機械学習のモデルは世の中の変化に影響を受け、時間とともに陳腐化します。ビジネスで AI を活用し、継続的に ROI を生み出していくためには、MLOps ガバナンスを整備する必要があります。そこで本稿では、DataRobot でのプロジェクトを通した私自身の経験を基に MLOps とガバナンス整備について、背景、課題、施策といった観点から解説します。
背景 – AI 活用の成熟化
AI 活用が成熟化すると、多くの企業は AI モデルをエンタープライズレベルで管理・運用するノウハウやテクノロジーを検討するフェーズに入ります。ここでは企業の AI 活用の成熟化を具体的に見ていきましょう。
ジョブ化の推進 当初はデジタルマーケティングや小売などの AI と親和性の高い領域において、ターゲティング、需要予測などを中心に AI 活用が進んでいきました。この場合、あるビジネスの業務に対して、モデルを単体で活用するケースがほとんどです。しかし近年は、業界・業務を問わずビジネスのあらゆる場面で AI 活用が進められています。特にAI活用に先進的な企業は、一つの業務に対して複数のモデルを連携させて使用する”AI のジョブ化”を構築するようになってきました。ジョブ化とは、ビジネスの最終的な意思決定をAIの予測結果に任せる”意思決定のデジタル化”とも言えるアイデアで、DX の要(かなめ)となるテーマとしても注目されています。 下図に示した「保険の審査プロセス」を例にジョブ化の仕組みを見ていきましょう。ここでは、申請者の属性推計・問い合わせ分類・リスク分析・商品のレコメンドと、複数の AI モデルが連携することで業務を通した意思決定の大部分を AI で実現します。ジョブ化によって、AI によるビジネスインパクトは大きくなりますが、AI 活用の仕組みはより複雑になっていきます。。
活用範囲の拡大 多くの AI 活用に成功した企業は、複数部署での活用展開をねらい、さらなる AI によるビジネスインパクトを享受する方向に進もうとします。異なるビジネス・業務で利用される AI モデルは、当然ながら予測の頻度や予測のタイミング、求められる精度も異なります。データサイエンティストや AI エンジニアは、ビジネス要求に応える水準でAIを運用するために、モデルの管理と監視を強化し、スピーディにデプロイ・再学習をすることが求められます。
AI 活用の高度化 AI 単体活用であったとしても、より大きなビジネスインパクトを創出するために基幹業務での活用も進んでいます。 例えば損害保険会社では、AI によって保険金の疑わしい請求を検知する仕組みの高度化を目指しています。正しい請求に対しては速やかに支払う一方で、疑わしい請求をAIが検知して詳細に調査できるようにすれば、支払いの迅速化と不正請求の逓減を同時に実現できます。
AI 活用の成熟化が進むにつれ、次に挙げる3つの課題が発生します。これらの課題へ対処し、企業として AI モデルを安全かつ安定した状態で利用できることが、AI によってビジネスを成長させる鍵となることは言うまでもありません。詳しく見ていきましょう。
シャドー AI の氾濫 AI 活用を展開する際は、多くの場合、初めから全社的に推進するのではなく、特定の部署からスモールスタートすることになります。そしてある部署での AI 活用が成功すると、その結果を基に複数部署での展開を段階的に試していきます。そのため、管理手法やガバナンスは活用の拡大に伴って徐々に整備されていきます。時には、AI の価値が社内で認識されてくることで、ある段階から急速に活用が拡大するケースも発生するでしょう。このような AI 活用が拡大する過程にある企業の多くは、各部署の我流・亜流のプロセスでモデルを構築・デプロイすることを許してしまう状況に陥ります。つまり、部署のプロジェクトオーナーやデータサイエンティスト独自の判断だけで自由に構築されたモデル(シャドーAI)がビジネスに適用され、企業として AI 運用のリスクを管理できない状態になります。