2026年1月に開催された一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)主催の「第4回金融データ活用チャレンジ」。金融業界のデータサイエンティストやビジネスパーソンが腕を競い合うこの大規模なコンペティションにおいて、株式会社オリエントコーポレーション(以下、オリコ)は見事「JPX総研賞」および「DataRobot賞」のダブル受賞を果たしました。
今回は、DataRobot Japanの副社長 兼 サービス統括部長であり、FDUA 企画出版委員会委員長代行を務める小川 幹雄がインタビュアーとなり、オリコのAIX推進メンバーの挑戦の舞台裏に迫りました。

オリコは、1954年の創業以来、日本の信販業界を牽引してきた大手総合金融サービス企業です。オートローンやショッピングクレジットをはじめとする個品割賦事業で国内トップクラスのシェアを誇るほか、カード・融資事業、銀行保証事業など、「与信力」と「全国の加盟店ネットワーク」を基盤に、人々の暮らしに寄り添う多彩な金融サービスを展開しています。
同社は2026年3月期を初年度とする中期経営計画において、強みである与信力をテクノロジーで磨き上げ、真に顧客を軸とした事業モデルへ転換し、お客様に選ばれ続ける金融グループとなることを宣言しており、5年後には「テクノロジーの組織ケイパビリティを高め、新たな金融モデルを構築」という目標に向かって進んでいます。
本ブログでは、これまで予測AIの活用で培ってきた知見を活かしながら、初の「AIエージェント構築」という新たな壁に挑んだメンバーが、いかにしてAIを使いこなし、実業務へ応用するヒントを掴み取ったのか。テクノロジーを原動力に、「アイデアが命である」とするチャレンジ精神と、それを支える風通しの良いカルチャーが定着しているオリコのAIX(AIトランスフォーメーション)戦略の最前線をご紹介します。
AIXの推進役:「デジタル・マーケティンググループ」の取り組み
オリコにおいて、全社的なAIX(AIトランスフォーメーション)の舵取りを担うのが「デジタル・マーケティンググループ」です。
同グループは、単に最先端のITツールを導入するだけでなく、デジタル技術・データマーケティングを基盤とした新規ビジネスのインキュベーションと業務プロセス改革を進めて、社会課題の解決に貢献していくことをミッションに掲げており、オリコにおけるデータ活用やAI活用の推進に注力しています。
今回は、同社のAIXを牽引する鈴木氏と、最前線で技術と向き合うAIX推進室の齋藤氏、データ・ソリューション部の八杉氏の3名にお話を伺いました。
コンペへの挑戦を通じて、彼らがいかにして「アイデアを形にする文化」を体現し、エージェント型AIの実業務への応用という次なるステップを掴み取ったのでしょうか。
メンバー紹介
- 鈴木 信也氏:株式会社オリエントコーポレーション デジタル・マーケティンググループ AIX 推進室長
- 齋藤 貴之氏:株式会社オリエントコーポレーション デジタル・マーケティンググループ AIX 推進室 部長代理
- 八杉 直樹氏:株式会社オリエントコーポレーション デジタル・マーケティンググループ データ・ソリューション部 部長代理
- 小川 幹雄:DataRobot Japan 副社長 兼 サービス統括部長(FDUA 企画出版委員会 委員長代行)
オリコが目指すエージェント型AI活用と「アイデアを形にする」組織文化
小川: まずは「第4回金融データ活用チャレンジ」でのJPX総研賞およびDataRobot賞のダブル受賞、本当におめでとうございます!オリコの皆様は予測AIの活用経験をお持ちですが、今回は初の「AIエージェント構築」という新しい領域で見事な成果を出されました。まずはその舞台裏をじっくり伺いたいのですが、はじめに今回のチャレンジに自発的に手を挙げて参加された背景について教えていただけますか?
鈴木氏: ありがとうございます。「まずチャレンジする」という姿勢が何より大事だと思い、FDUAのコンペにも第2回以降は毎回参加しています。普段は社内の閉じた環境で仕事をしていますが、メンバーも「外部の基準や自分たちの立ち位置がどうなのか」にすごく興味を持っています。今回はAIX推進室とデータ・ソリューション部から、自発的に手を挙げたメンバー計9人が3つの合同チームを組んで挑戦しました。
小川: ボトムアップの挑戦を会社がしっかりバックアップされているのですね。今回のチャレンジ(コンペ)への参加にあたっては、作業時間の確保はどのようにされていたのでしょうか?「業務時間外で好きなようにやってくれ」という企業も少なくない中、オリコ様では会社として一定の時間を担保されていたのですか?
鈴木氏: はい、「業務時間内」で時間を確保して取り組んでもらいました。特に細かなルールを設けて縛るようなことはせず、基本的には「自由にやっていいよ」というスタンスでした。
もちろん、日々の実業務を抱える中で、コンペへの注力によって業務時間が逼迫するようなケースもあります。ですが、そこは各自の裁量に委ねて、自分たちでコントロールしながら進めてもらいました。
小川: 素晴らしいですね。勝って成果が出た後で称えるのではなく、挑戦する手前の段階からしっかりと会社が時間を確保し、リソースを担保していることは、メンバーの皆さんにとっても、非常に自己啓発や新しいスキルの習得にチャレンジしやすい環境が整っていると感じます。
鈴木氏: 私たちの会社において、データ活用やAI領域で成果を出すためには、決められたことだけをやるわけではなく、何よりも「アイデアを出していくことが大事」であると感じています。各部署が悩んでいる本質的なニーズを引き出すためにも、声をあげやすい雰囲気を作ることが何より重要だと考えています。
そのために、とにかく「風通しを良くする」ことが大切です。みんなが思いついたアイデアを気兼ねなく言える雰囲気を作りたいのです。アイデアは数勝負な部分がありますから、練り上げられたものしか受け付けないとなると、誰も発言しなくなってしまいます。
コンペ成果の実業務への応用:営業、市場調査、債権回収への展開
小川:業務時間内での自由な挑戦、そしてそれを全社でオープンに称え合う仕組みが、オリコ様の強固な推進力を生んでいるのですね。今回のコンペでは生成AIを活用した提案書の自動作成という、非常に実践的な課題にビジネスサイドの視点で取り組まれました。ここで得られた知見や成果は、実業務へと応用できそうという手応えはありますか?
齋藤氏: はい、十分に使えると思っています。今回のコンペで得られた知見や経験は、単なる受賞という結果にとどめることなく、実務に直結するものと感じています。特に応用しやすいと考えているのが、私たちのグループの主軸でもある営業現場での課題解決です。
小川: 実務への導入を見据えられているのですね。他の業務についても可能性はありますか?
八杉氏: 営業以外でも、市場調査や財務分析といった領域にも幅広く応用できるポテンシャルがあると考えています。現在は、自社の環境の中でやれる範囲のプロトタイプから実装を企画・推進しています。さらに、回収やオペレーションにおいても生成AIをはじめとするテクノロジーの活用を進めており、初期督促の効率化やオペレーションの自動化範囲の拡大に取り組んでいます。これらに加えて、必要人員の継続的な確保が難しくなっているコンタクトセンターの自動化推進についても、すでに実装に向け着手しており、お客様満足度の向上を図っています。
こうした取り組みができるのも、普段の業務を通じてデータ分析やAI活用のスキルを磨ける環境があってこそのことであり、日頃ご支援・ご協力いただいている皆様のおかげと感謝しています。

初めてのAIエージェント開発で見えた「エラーの壁」と、DataRobotを選んだ理由
小川: 普段からDataRobotの予測AI機能を使われていて、Pythonコードのカスタマイズ経験もお持ちの皆さんですが、今回のテーマである「AIエージェント(LLMエージェント)」の構築は、フレームワーク選定などを含め初めての挑戦だったのでしょうか?それとも、過去に他のコンペなどで経験があったのでしょうか?
齋藤氏:私たちは2018年頃からDataRobotを利用しており、予測AIによるスコアリングなどは行っていましたが、実際に自分たちの手で作って動かしたというのは、今回が完全に初めての経験でした。だからこそ、すごくやり甲斐がありましたね。
小川: 初めての領域への挑戦となると、やはり固有の苦労や不安もあったのではないですか?
齋藤氏: そうですね。やはり「エージェントという新しい仕組みを自分たちでちゃんと使いこなせるだろうか」という不安はありました。ただ、何事もそうですが、「最初からできる人はいない、まずは触ってみないと分からない」と思い、とにかくチャレンジしてみようという精神で飛び込みました。
今回、一番苦労したのは、コードを書いて動かした際に出る「エラーの解消(デバッグ)」のプロセスです。なぜエラーになるのかを突き止めるのに多くの時間を費やしました。
ただ、実際に手を動かしてみると、DataRobot側にあらかじめプラットフォームとしての強固な「枠組み」が用意されていたため、すべてを一から構築する必要がなく、アレンジが必要な一部分だけコードを書いて組み込むというスタンスで進めることができました。結果として、非常に自由度の高いカスタマイズを実現できたと感じています。
小川: ちなみに、そのカスタマイズの部分で、何かAIコーディングツールなどを使われましたか?
齋藤氏: 実は、基本設計の段階は「手書き」でガリガリやったりしていました。そこは泥臭く苦労した部分でもありますが、私にとっては一番楽しい、大好きなプロセスでしたね。
小川: 基本設計は手書きだったのですね!コーディングへの熱いこだわりを感じます。実際にDataRobotのテンプレートや機能を使ってみる中で、「ここが特に良かった」「開発が劇的に楽になりそうだ」と感じた具体的なポイントはありますか?
齋藤氏: 圧倒的にLLMゲートウェイの機能ですね。本当に有用な機能でした。現在、各社から様々な生成AIモデルやAPIが提供されていますが、モデルによってリクエストやレスポンスの形式が全部バラバラですよね。その複雑な差異を、LLMゲートウェイが裏側で綺麗に吸収して1つに統一してくれていました。
小川: なるほど、完全にエンジニアの観点ですね。各AIモデルの仕様変更やAPIの文法の違い、あるいは同じベンダーでもバージョンが変わるだけで、コードが動かなくなって泥沼に「ハマってしまう」というのは開発者のあるあるだと思います。
齋藤氏: まさにそのレスポンスAPIのハンドリングで「ハマる」部分をプラットフォームが吸収してくれたおかげで、中身の実装にしっかりと集中して構築することができました。
実業務へのデプロイを見据えた「次なる壁」
小川: 開発者が環境周りの複雑さに足止めされず、ビジネスロジックの構築に100%集中できるというDataRobotの本質的な価値を体感していただけたのは嬉しいです。
ちなみに、オリコ様ではこれまでの予測AIはシステムへ「APIで繋ぎ込む」という形が主流でしたが、DataRobotの生成AI/エージェント機能では、その上層にある「アプリケーション(UI)」の部分までデザインしてパッケージとして出せる点にこだわっています。このコンセプトは、実務展開を見据えた際には有用なものでしょうか?
齋藤氏: 非常に有用だと思います。今、私たちは自分たちでStreamlitなどを使って個別にUIを作っているのですが、DataRobot側にあらかじめアプリのテンプレートのようなものがあれば、格段に作りやすくなりますし、展開のスピードも上がると感じますね。
小川: テンプレートがあると、フロントエンドの開発に不慣れなメンバーでも形にしやすいですよね。ちなみに、先ほど「営業現場に応用したい」というお話がありましたが、実際にアプリを営業に使ってもらう場合、UIも重要な要素かと思いますが、今回のチャレンジの中でUIに関する議論は出ましたか?
齋藤氏: 今回はとにかく「結果(精度)」を出すことだけに集中していた点と、当初は自分たち開発メンバーだけで使うイメージで取り組んでいたので、UIまではあまり気にしていませんでした。ただし、今後、実際に他部署(営業現場など)での導入や活用を広げていくには、UIは妥協できない大事なポイントです。ここは私自身、今後さらに勉強していかなければいけない分野だなと痛感しています。
八杉氏: 現場では営業支援システムが業務の土台になっているので、そことシームレスに連携できるように作らないといけない、という実務上の課題もありますね。
小川: 営業支援システムとの連携は必須ですね。また、営業担当の方々だと、外出先からスマートフォンや携帯端末でアプリを見る機会も多いのではないでしょうか?
八杉氏: そうですね、スマートフォンからアクセスすることも非常に多いと思います。
小川: そうなると、PC画面をそのままスマートフォンで見た際に視認性が低くなる問題をあらかじめ考慮しておく必要がありますね。
DataRobot側にも画面サイズに追従するベースの仕組みはありますが、やはり現場で本当に使いやすい「ボタンの配置」や「サイズ感」といったデザインの工夫は不可欠です。このあたりは生成AIに「スマートフォン向けに最適化して」と指示を出しながら試行錯誤できますので、チーム内で「モバイルで使いやすいデザインの知見(集合知)」を溜めてアプリに反映していくことが、現場への普及を一気に加速させる重要なポイントになると思います。

チャットの普及から、次なる「AIエージェント量産」へのロードマップ
小川: 今回は「提案書作成」という非常に面白いテーマでの受賞となりましたが、社内において「この業務でもエージェント(AIエージェント)を走らせたら面白いんじゃないか」というような、次なるアイデアは生まれていますか?
鈴木氏: 正直にお話しすると、社内全体として「エージェント型AI」を本格的に活用するという動きは、これからという段階です。ようやく昨年度、全社に対して「チャットレベル(対話型)」の生成AIの使い方を普及させることができ、第一段階のベースができたところです。
現状、エージェントと呼べるレベルのものは、齋藤さんが個別で開発した、社内用の「議事録作成エージェント」や、ウェブから最新のニュースを自動で収集して要約・レポートしてくれる「ニュース収集エージェント」など、属人的に作った便利なツールが主です。
小川: チャットによる生成AIの民主化の土台ができたからこそ、次は具体的な業務を自走して処理する「エージェント」の量産フェーズに移行していくわけですね。非常に理想的なステップです。
鈴木氏: はい。そして近い将来の大きな目的としては、社内業務だけでなく「顧客向けのエージェント」を走らせることも見据えています。私たちはカスタマーサポートを持っていますので、お客様対応のフロントにエージェントを組み込む検討を始めているところです。
正直、この領域で先行する企業と比べると、まだ一歩遅れていることは自覚しています。ただ、最先端の取り組みに追いつき、お客様に満足度の高いサービスを体感いただくために、私たちはチーム一丸で取り組んでいます。
まずは触って動かすことから。私たちの挑戦と、組織につなぐ成果の還元
小川: 開発者がインフラの複雑さに足止めされず、ビジネスロジックの構築に集中できるというDataRobotの価値を最大限に活かしていただけて光栄です。最後に、これからAIを活用していこうと考えている社内の若手メンバーや、他の金融機関の推進者に向けてメッセージをお願いします。
鈴木氏: ありきたりな言葉になってしまいますが、やはり「まずは触ってみる、挑戦してみる」ということに尽きます。「やらないと始まらない」ですから。
完璧を求めすぎると時間がかかってしまいます。私たちが、着任したメンバーにいつも伝えていることは、完成度が6割であっても、まずは動かしてみて、アウトプットを出して周囲と共有してみようということです。この「Fail Fast(早く失敗し、早く修正する)」のスタンスが、これからのAI時代には最も大切だと感じています。
現場業務における具体的な実装と、全社的なデータ活用力・AI活用力の底上げを両輪で進めることで、今回の経験を当社の競争力強化に資する取り組みへと発展させてまいります。引き続き、デジタル・マーケティンググループとして関係部門と緊密に連携しながら、当社のさらなる発展に貢献してまいります。
小川: ありがとうございます。チャットの民主化から業務を自走するエージェントの量産、そして顧客対応へという明確なロードマップと、それを支える強固なチームワーク、本当に素晴らしいですね。金融機関はどうしても100%の正確性やベストクオリティを最初に求めがちですが、まずはプロトタイプを動かして改善していく文化こそが、AIXを成功させる鍵ですね。
最後に、今回のダブル受賞という快挙を成し遂げたオリコの皆様から、今回のチャレンジの総括とこれからの展望についてメッセージをいただき、本インタビューの締めくくりとさせていただきます。

齋藤氏:最新技術を現場のアイデアと結びつけ、業務へ実装していく
「この度のDataRobot賞受賞は、日々の業務の成果であり、オリコのデータ活用力・AI活用力が社外でも高く評価された結果だと捉えております。
今回得られた知見は、単なる経験にとどめず、社内のAI活用支援やツール開発へと積極的に還元してまいります。今後も最新技術の習得に励み、業務への実装を企画・推進していきます」
八杉氏:日頃の環境への感謝を胸に、実務直結の知見を組織へ還元する
「この度、第4回金融データ活用チャレンジにてJPX総研賞をいただきました。普段の業務を通じて、日常的にデータ分析やAI活用のスキルを磨ける環境があってこその受賞であり、日頃から私たちを支え、ご協力いただいている皆様のおかげだと深く感謝しております。
今回のコンペでは、生成AIを活用して提案書を作成するという非常に実践的な課題に取り組みました。ここで得られた知見や経験は、まさにこれからの実務に直結するものと感じております。学んだことを少しでも多くの皆様に還元できるよう、これからも引き続き精進してまいります」
鈴木氏:具体的な実装と全社的な底上げを両輪で進め、当社の競争力を強化する
「この度、第4回金融データ活用チャレンジにてJPX総研賞およびDataRobot賞を受賞いたしました。
今回のダブル受賞は、日頃から『業務にどう活かせるか』という徹底して実践的な視点を持ち、生成AIやデータ分析の新たな手法・ツールに果敢に向き合ってきた成果です。自ら学び、検証し、泥臭く試行錯誤を重ねてきた齋藤さん、八杉さんの地道な積み重ねが、最高の形で結実したものと受け止めております。
本コンペで得られた知見は、単なる受賞という結果で終わらせるつもりはありません。当社のAI・データ活用の取り組みに着実に組み込み、関係部室店の諸施策へと還元していくことにこそ、本質的な価値があると考えています。
現場業務における『具体的な実装』と、全社的な『データ活用力・AI活用力の底上げ』を両輪で進めることで、今回の経験を当社の競争力強化に資する取り組みへと力強く発展させてまいります。引き続き、デジタル・マーケティンググループとして関係部門と緊密に連携しながら、さらなる発展に貢献してまいります」