ここ1年ほどで、「FDE(Forward Deployed Engineer)」という言葉を耳にする機会が一気に増えました。AIベンダー、SIer、コンサルティング会社が相次いでFDEを掲げ、そのどれにおいても「お客様の現場に入り込み、実際に動くものを作る」と説明されています。急速に使われる頻度が高まった反面、むしろ違いがわかりにくいと感じることもあるのではないでしょうか。
私たちDataRobotのFDEには、ほかと異なる点が三つあります。(1)製品開発チームの一員として動くこと。(2)その働き方を、予測AIの時代から何年も続けてきたこと。そして、(3)一人のエンジニアである以上に、異なる専門性をもつ『チーム』として機能することです。本記事では、この三点がお客様にとって何を意味するのかを順に説明します。
業務のエージェント化は、PoCの先で止まりやすい
問い合わせ対応、審査、需要予測、書類確認。エージェント化したい業務は、多くの企業ですでにリスト化され計画されてきています。しかしPoCまでは進んでも、社内システムとの接続、判断品質の担保、監査やセキュリティへの対応でつまずき、本番運用に至らないことは少なくありません。エージェント化したい業務のアイデアよりも、作り切るための人材・スキル・ノウハウ・基盤が足りていないためです。
汎用AIは、文章作成や要約といった個人の作業を速くします。一方で、経営に説明できる成果を出すには、エージェントを業務フローや社内システム、判断ロジックに組み込み、本番で動かし続ける必要があります。FDEへの期待が高まっているのは、この壁を越える実行力としてです。
FDEの仕事には「製品へのフィードバック」が含まれている
FDEという役割は、自社のソフトウェア製品をもつ企業で生まれました。お客様の現場に入り込んで課題を解くだけでなく、そこで得た知見を製品チームに持ち帰り、製品そのものを改善することまでがFDEの仕事です。
要件定義されたソフトウェアを現場でただ作るだけであれば、従来の常駐型の受託開発と変わりません。自社製品をもたない組織のFDEは、現場で得た学びを還元する先を構造的にもっていないため、案件ごとの作り込みに終わりがちです。FDE本来の価値は、顧客の現場で得た知見や課題を自社製品の機能へ還元し、プロダクトそのものを進化させる点にあります。これにより、顧客側で個別開発や複雑な保守を抱え続ける必要がなくなり、製品の標準機能として継続的にアップグレードの恩恵を受けられるようになります。そのため、FDEを比較するときは、「現場で作れるか」に加えて、現場で得た学びがどこへ行くのかという点を見ると違いがはっきりします。
DataRobotのFDEは製品開発チームと一体で動き、個別開発を製品機能に置き換えていく
DataRobotのFDEは、DataRobotの製品開発チームと日常的に連携しています。複数のお客様に共通する要望は、案件ごとに作り込むかわりに製品機能として実装するよう、製品チームに働きかけます。
最近の例が、Codespceへのリモート接続機能です。Codespaceでは、DataRobotのプラットフォーム上でコンテナ型の開発環境を立ち上げて利用することができます。2026年夏のリリースで、このCodespaceに手元の開発ツールからSSH経由で接続できるようになりました。DataRobot CLIにプラグインを追加して dr codespace ssh を実行すると、ローカルにトンネルが張られます。そのうえで開発ツールのSSH接続機能 (例:VS CodeのRemote-SSH拡張機能) を使えば、Codespaceのファイル編集やターミナル操作ができます。手元で使っているAIコーディング支援の拡張機能も、そのまま使うことができます。
一見すると軽微な機能追加ですが、背景には現場の声があります。エージェント開発の現場では、使い慣れたローカルのIDEとAIコーディング支援ツールで開発したい、という声が繰り返し上がっていました。案件ごとに回避策を組むこともできますが、それではお客様ごとに保守すべき仕組みが増えていきます。FDEがこの共通の要望を自社の製品チームに共有した結果、製品の標準機能になりました。
お客様にとってみると、独自に作り込み、保守し続けなければならないコードを減らすことができます。また、製品のアップデートを通じて、他のお客様の現場から生まれた改善も受け取ることができます。FDEに依頼することは、一つの案件の実装を頼むことにとどまらず、製品の進化の輪に加わることでもあるのです。
DataRobotはこのような働き方を何年も続けてきている
FDEという呼び名が広まったのは最近ですが、DataRobotにとってこの働き方は新しいものではありません。AIエージェントの時代よりずっと前から、DataRobotにはCFDS(Customer Facing Data Scientist)という職種がありました。
CFDSは、お客様の現場で予測モデルの構築と本番運用を支援しながら、製品開発に携わるデータサイエンティストやエンジニアと密に連携してきました。お客様のフィードバックを製品に還元し、ベータ版の機能を積極的にお客様に提供して、実際の業務データでの検証を通じて製品開発を早めてきたのです。それが結果として、お客様がAIから得る価値を高めてきました。DataRobotが14年以上にわたってAIの本番運用に携わってきた実績は、こうしたサイクルの上に積み上がっています。
このノウハウの蓄積は、エージェントの時代にも直接生きてきます。需要予測や異常検知といった予測モデルは、業務エージェントの中で判断を担う重要なツールになるからです。すでにDataRobotで予測モデルを運用しているお客様であれば、その資産を活かしてエージェントへ拡張できます。今のFDEは、CFDSが続けてきた実践をエージェントの時代に引き継いだものです。
業務エージェントの本番化には、フルスタックエンジニア一人では足りない
FDEというと、何でもこなすフルスタックエンジニアを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、業務エージェントを本番で動かすには、性質の異なる仕事が同時に求められます。何を作れば経営に説明できる成果になるのかを決める仕事。基幹システムやデータ基盤と安全につなぐ仕事。エージェントを実装し、テストし、デプロイする仕事。そして、エージェントの判断が業務に耐える品質かを見極める仕事です。これらすべてを高い水準でこなすためには多角的な視点が必要です。だからこそチームで臨む必要があります。
テクノロジー製品の開発組織には、一般にプロダクトマネージャー、アーキテクト、ソフトウェアエンジニア等がいます。DataRobotの場合は、ここにデータサイエンティストが加わります。私たちのFDEも同じ構成をとります。AIプロジェクトマネージャー、AIアーキテクト、AIエンジニア、データサイエンティストのいずれか、あるいは複数を得意とするメンバーが、一つのチームとしてプロジェクトに入ります。お客様がこうした人材を個別に採用・育成する必要はありません。
四つの専門性を活かしてエージェントの本番化の壁を越える
設備の予知保全と部品の自動発注を組み合わせたエージェントを例に、各役割の仕事を見てみます。IoTセンサーのデータから設備の劣化を予測し、必要な部品の発注ドラフトまでを作成して、保全責任者の承認後に調達システムへ登録する、という業務です。
AIプロジェクトマネージャーの仕事は、進捗管理にとどまりません。お客様に納めるエージェントを一つの「プロダクト」ととらえ、どの業務課題を解き何をもって成功とするのかの定義と、それを達成するための戦略、そして具体的な要件を定めます。AIアーキテクトは、既存おIT基盤や調達ERPとの接続を設計し、承認フローを含むセキュリティとガバナンスの仕組みを整えます。データサイエンティストは、異常検知や残存寿命予測のモデルを作り、その判断が現場で信頼に足るかを評価指標で確かめます。AIエンジニアは、これらを一つのワークフローとして実装し、ツール連携、テスト、チューニング、デプロイまでを担います。
どれか一つが欠けても、エージェントは本番に届きません。要件が曖昧なら手戻りが増えます。システム接続が弱ければ現場で使えません。判断品質が担保されなければ、業務を任せられません。
事例:業務固有のロジックを理解したことが、成果を分けた
ある保険関連の業務では、保険バインダー(契約内容をまとめた書類)とポリシー情報の照合を自動化しました。エージェントはデータレイク上でポリシーIDを検索してバインダーを取得し、ビジネスルールに基づく照合ロジックでポリシーの種別を判定します。年間約14万枚のバインダー処理で、1枚あたり10分の作業を短縮しました。削減できた業務は年間約2,000時間です。この業務フローを最初から知っているAI企業は、世界のどこにもありません。FDEが要件定義から実装までを一貫して担い、お客様固有の業務ロジックを深く理解したことが成果につながりました。
エネルギー業界では、ガス漏れを検知する危機管理エージェントを開発しました。物理シミュレーションを用いてガスの位置と濃度をほぼリアルタイムで推定し、オペレーターの要件変更に応じてドローンの飛行ルートを即座に再計算します。お客様はあえて難易度の最も高いテーマから着手し、その成果を動画事例として対外発信しました。AIの先進企業としての認知が高まり、高度な人材の採用にも役立っています。
どちらも、汎用AIでは届かない業務固有のエージェントです。FDEの価値が最も発揮されるのは、こうした領域です。
作り切ったエージェントが、製品とともに育ち続ける
製品開発チームの一員であること。CFDSとして何年も続けてきた実践があること。四つの専門性をもつチームであること。この三つは、お客様にとって次のような価値になります。
まず、自社のAIエージェントプラットフォームの上で開発するため、エージェント用のインフラやガバナンスを一から構築する必要がありません。そのため、3ヶ月での本番稼働を目指せます。次に、現場の共通要望は製品機能に置き換わっていきます。独自に保守すべきコードが減り、製品のアップデートとともにエージェントの価値も高まります。特定のクラウドやLLMに依存せず、お客様の既存環境に合わせて構成できる点も特徴です。そして、開発を通じてお客様のチームへスキルを移転し、将来の内製化も支えます。DataRobotは、このFDEチームを「DataRobot COE」としてご提供しています。
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