本ブログはグローバルで公開された「Mission-ready AI: Radio intelligence at the edge」の抄訳版です。
この記事では、DataRobotとDeepwaveが共同開発し、NVIDIAの技術によって強化されたソリューションについて解説します。このソリューションは、エアギャップ環境(外部ネットワークから隔離された環境)、オンプレミス、そして高度なセキュリティが求められる環境向けに設計された、セキュアで高性能なAIスタックを提供します。これにより、政府機関や組織は真のデータ主権とオペレーショナル・エクセレンスを実現できるようになります。
自律型インテリジェンスの必要性
AIは急速に進化しており、単なるツールから、推論し、計画し、実行することができる「自律型エージェント」へと変貌を遂げています。この変化は、RF(無線周波数)インテリジェンスのように、膨大なデータストリームをリアルタイムで分析する必要がある、極めて重要かつリスクの高いミッションクリティカルなアプリケーションにおいて決定的な意味を持ちます。
公共プログラムや政府のプログラムにこうした高度なエージェントを導入するには、従来のRF分析ソリューションでは提供できなかったレベルのセキュリティ、スピード、そして精度が求められます。
プログラムの責任者は、パフォーマンスが低く複雑なソリューションを選んで技術的負債を抱え込むか、特定のベンダーにロックインされるかという、困難な選択を迫られることが少なくありません。次世代のRFインテリジェンスを提供しなければならないというプレッシャーは絶えることがなく、運用リーダーたちは限られた選択肢の中で導入を進めなければならないという重圧にさらされているのです。
Radio Intelligence(無線インテリジェンス)における課題
Radio Intelligenceとは、無線周波数(RF)信号のリアルタイムな収集と分析を指し、通信だけでなく電子システムからの放射も対象とします。実際には、これはRF信号の内容(音声、映像、データストリームなど)を抽出することを意味する場合が多く、連邦政府機関にとって極めて困難なプロセスとなるものです。
- 現代のRF信号は非常に動的であり、それに追随するためには同様に機敏な分析能力が必要となります。
- 運用は、手動での分析では遅すぎて拡張性がない、競合の激しいエッジ環境で行われることがよくあります。
- 高いデータレートと信号の複雑さはRFデータの活用を著しく困難にしており、動的に変化する信号には、リアルタイムで適応できる分析プラットフォームが不可欠と言えるでしょう。
ミッションクリティカルなニーズとは、膨大なデータからアクションにつながるインテリジェンスを迅速に抽出し、タイムリーで、時には人命救助に関わるような意思決定と推論を可能にする、自動化された高度に再構成可能なソリューションなのです。
Radio Intelligence エージェント (RIA) のご紹介
この重要なニーズに応えるために設計されたのが、Radio Intelligence エージェント (RIA) です。これは、生のRF信号を、常に進化し続けるコンテキスト(文脈)駆動型のリソースへと変換する、自律的でプロアクティブなインテリジェンスシステムです。このソリューションは、検索エンジンの能力をはるかに超えた、新しい洞察と推奨事項を提供する「賢明なチームメンバー」として機能するように設計されています。
RIAが現在の技術と決定的に異なる点は、その統合された推論能力にあります。NVIDIA Nemotron推論モデルを搭載したこのシステムは、パターンを合成し、異常をフラグ付けし、実行可能な対応策を推奨することができます。これにより、単なる情報の検索と運用上のインテリジェンスとの間のギャップを効果的に埋めることができるのです。DataRobotとDeepwaveによって共同開発され、NVIDIAの技術を搭載したこのAIソリューションは、信頼性の高い統合コントロールプレーンである DataRobotのエージェントワークフォースプラットフォーム によってライフサイクル全体がオーケストレーションされ、生のRF信号を対話型のインテリジェンスへと変革します。
連邦政府機関におけるユースケースと導入
RIAは、連邦政府の運用における厳格な要求に合わせて設計されており、すべてのコンポーネントがセキュリティ、コンプライアンス、および導入の柔軟性を考慮して構築されています。
RIAソリューションの強みは、DeepwaveのAirStack Edgeエコシステム内で、エッジ側で相当量の処理を実行できる点にあります。このアーキテクチャにより、不可欠なセキュリティと規制コンプライアンスを維持しながら、高性能な処理が可能となります。
RIAソリューションは、運用チームを単純なデータ収集と分析から、プロアクティブでコンテキストを認識したインテリジェンスへと移行させ、事後対応(イベント管理)ではなく事前予防(イベント防止)を可能にします。これは、公共安全機能における飛躍的な進歩と言えるでしょう。
- イベント対応の最適化: このソリューションは、単なるアラートにとどまらず、状況が展開する中で「デジタルアドバイザー」として機能します。受信データをリアルタイムで分析し、関連するエンティティや場所を特定し、応答時間を短縮して成果を向上させるための「最善のアクション」を推奨します。
- 状況認識(Operational Awareness): 音声や映像のフィード、センサー入力など、複数のデータストリームにわたる可視性を高め、リアルタイムで活動の統一されたビューを作成します。この広範な監視機能により、認知的負荷が軽減され、チームは手作業でのデータ分析ではなく、戦略的な意思決定に集中できるようになります。
- その他のアプリケーション: RIAの中核機能は、公共安全、初期対応者(ファーストレスポンダー)、その他の機能を含む、大量のデータストリームの迅速かつ安全で正確な分析を必要とするシナリオに適用可能です。
また、このソリューションはポータビリティにも優れており、ローカルでの開発とテストをサポートすると同時に、連邦政府のミッションにおける安全な本番運用のために、プライベートクラウドやFedRAMP認定を受けたDataRobotホスト環境へシームレスに移行することも可能です。

Radio Intelligence エージェント の詳細
複雑なRF信号の分析結果を、信頼性が高く、高忠実度で、実行可能な状態で、質問するだけで数秒以内に受け取ることができると想像してみてください。
DataRobot、Deepwave、NVIDIAはチームを組み、これを現実のものとしました。
まず、DeepwaveのAIR-Tエッジセンサーが、組み込みのNVIDIA GPUを搭載したAirStackソフトウェアを使用して、RF信号を受信・デジタル化します。
次に、AirStackの最新コンポーネントであるAirStack Edgeが(Federal Information Processing Standards:連邦情報処理標準)準拠のの暗号化を備えたセキュアなAPIを導入し、信号処理アプリケーションやNVIDIA Riva Speech and Translation AIモデルをAIR-Tデバイス上に直接展開することを可能にします。
このエンドツーエンドのプロセスはセキュアかつリアルタイムで実行され、抽出されたデータコンテンツはDataRobotによってオーケストレーションされるエージェントベースのワークフローへと配信されます。
このソリューションのエージェント機能は、NVIDIA Llama-3_1-Nemotron-Ultra-253B-v1を活用してコンテキストを解釈し、高度な応答を生成する、洗練された2段階構成のシステムに基づいています。
- クエリ解釈: ユーザーの最初の意図を理解し、自然言語の質問を定義された情報ニーズへと翻訳する役割を担います。
- 情報検索: このエージェントは必要な検索を実行し、関連するトランスクリプト(書き起こし)のチャンクを取得し、多様なデータポイントを接続して検索されたテキストに推論を適用することで、最終的な一貫した回答を合成します。
この機能は、GPUアクセラレーションパイプラインを使用してライブRFデータストリームのリアルタイム取り込みと処理を可能にする NVIDIA Streaming Data to RAG ソリューションを通じて提供されます。
NVIDIAの最適化されたベクトル検索とコンテキスト合成を活用することで、システムは、運用のスピードと規制コンプライアンスの両方を確保しながら、無線通信の書き起こしデータに対して、高速かつセキュアでコンテキスト駆動型の検索と推論を行うことができます。
エージェントはまず、書き起こされた音声とセンサーメタデータの意味的埋め込み(セマンティック・エンベディング)を保存するベクトルデータベースを参照し、最も関連性の高い情報を見つけてから、一貫した応答を生成します。センサーメタデータはカスタマイズ可能であり、周波数、場所、データの受信時間など、信号に関する重要な情報を含んでいます。
このソリューションには、この高度なワークフローを可能にするいくつかの専門的なツールが装備されています。
- RFオーケストレーション: DeepwaveのAirStack Edgeオーケストレーションレイヤーを利用して、新しいモデルの実行、信号の記録、または信号のブロードキャストを行うことで、新しいRFインテリジェンスを能動的に再収集できます。
- 検索ツール: 大量のトランスクリプトデータ全体に対して、1秒未満でセマンティック検索を実行します。
- 時間解析ツール: 人間にとってわかりやすい時間の表現(例:「3週間前」)を、メタデータで公開されている10ナノ秒以下の精度を活用して、正確で検索可能なタイムスタンプに変換します。
- 監査証跡: システムは、すべてのクエリ、ツールの使用、およびデータソースの完全な監査証跡を維持し、完全なトレーサビリティと説明責任を保証します。
NVIDIA Streaming Data to RAG Blueprintの例では、ワークフローを単純なデータ検索から自律的でプロアクティブなインテリジェンスへと移行させることが可能です。GPUアクセラレーションによるソフトウェア無線(SDR)パイプラインは、RF信号をリアルタイムで継続的にキャプチャ、書き起こし、インデックス化し、継続的な状況認識を実現します。

エージェントワークフォースプラットフォーム:統合コントロールプレーン
NVIDIAと共同開発された エージェントワークフォースプラットフォーム は、エージェントパイプラインおよびオーケストレーションレイヤーとして機能し、ライフサイクル全体を調整するコントロールプレーンとなります。これにより、政府機関はスタックのすべてのレイヤーにわたって完全な可視性と制御を維持し、コンプライアンスを自動的に強制することができます。
プラットフォームの主な機能は以下のとおりです。
- エンドツーエンドの制御: 開発、導入から監視、ガバナンスに至るまで、AIライフサイクル全体を自動化し、機関が新しい機能をより迅速かつ確実に実戦配備できるようにします。
- 設計アーキテクチャ: NVIDIA Enterprise AI Factoryアーキテクチャで構築されており、スタック全体が初日から検証済みで本番環境に対応しています。
- データ主権: DataRobotのソリューションは、高セキュリティ環境向けに特別に構築されており、機関のエアギャップ環境やオンプレミスインフラストラクチャに直接導入されます。すべての処理はセキュリティ境界内で行われるため、完全なデータ主権が確保され、機関がデータと運用の唯一の管理と所有権を保持することが保証されます。
重要なのは、運用ハードウェアやモデルに外部プロバイダーを必要としないため、AIスタック全体に対する運用上の自律性(または主権)が提供されるという点です。これにより、完全なAI機能が機関の管理領域内に留まり、外部への依存やサードパーティのアクセスから解放されることになるのです。

専門分野に特化したコラボレーション
このソリューションは、共同開発されたエンタープライズグレードのアーキテクチャの上に構築されたコラボレーションの成果です。
Deepwave:エッジ環境でのRF AI
DataRobotは、Deepwaveのような高度なスキルを持つ専門パートナーと統合しています。Deepwaveは、生のRF信号コンテンツをRFインテリジェンスに変換し、それをDataRobotのデータパイプラインと安全に共有するための、重要なAIエッジ処理を提供します。Deepwaveプラットフォームは、RF AIエッジタスクのオーケストレーションと自動化を通じてRFインテリジェンス収集の次のステップを可能にし、このソリューションの機能を拡張します。
- Edge AI処理: エージェントは、Deepwaveの高性能エッジコンピューティングとAIモデルを使用して、RF信号を傍受し処理します。
- インフラの削減: 生のRFデータをバックホール(中継)する代わりに、ソリューションはエッジでAIモデルを実行し、重要な情報のみを抽出します。これにより、ネットワークのバックホール要件が1000万分の1(チャネルあたり4 Gbpsからわずか150 bpsへ)に削減され、モビリティが劇的に向上し、必要なエッジインフラストラクチャが簡素化されます。
- セキュリティ: DeepwaveのAirStack Edgeは、最新のFIPS準拠の暗号化を活用して、このデータをエージェントワークフォースプラットフォームに安全に報告します。
- オーケストレーション: DeepwaveのAirStack Edgeは、RF AIエッジデバイスのネットワークをオーケストレーションし、自動化します。これにより、不要な信号の検知やジャミングなど、RFシナリオへの低遅延な応答が可能になります。
NVIDIA:信頼とパフォーマンスの基盤
NVIDIAは、連邦政府のミッションに必要な高性能かつセキュアな基盤を提供します。
- セキュリティ: AIエージェントは、本番環境対応の NVIDIA NIM™ microservices で構築されています。これらのNIMは、信頼できるSTIG対応のベースレイヤーから構築され、FIPS準拠のの暗号化をサポートしており、FedRAMP導入を迅速かつ安全に実現するための、事前に検証された不可欠なビルディングブロックとなります。DataRobotはNVIDIA NIM ギャラリーを提供しており、LLM、VLM、CV、エンベディングなど、複数のモダリティやドメインにわたるアクセラレーションAIモデルを迅速に利用し、どこにでも展開可能なエージェントAIソリューションに直接統合することができます。
- 推論(Reasoning): エージェントの中核となるインテリジェンスは、NVIDIA Nemotron モデルによって支えられています。これらのオープンウェイト、データセット、レシピを備えたAIモデルは、優れた効率性と精度を兼ね備えており、エージェントに高度な推論能力と計画能力を提供します。これにより、複雑な推論や指示の実行に優れた能力を発揮します。単純な検索を超えて複雑なデータポイントを結びつけ、単なるデータ取得ではない、真のインテリジェンスを提供します。
音声と翻訳: NVIDIA Riva Speech and Translation(以下、Riva)は、リアルタイムの音声認識、翻訳、合成をエッジで直接可能にします。RivaをAIR-TおよびAirStack Edgeと共に展開することで、RF信号から抽出された音声コンテンツをデバイス上で低遅延で書き起こし、翻訳することができます。この機能により、Radio Intelligence エージェントは、傍受した音声トラフィックを実行可能な多言語データストリームに変換し、DataRobotのエージェントAIワークフローにシームレスに流し込むことが可能になるのです。
ミッションクリティカルなAIへの協調的アプローチ
DataRobot、NVIDIA、Deepwaveの強みを組み合わせることで、包括的でセキュアな、本番環境対応のソリューションが生まれます。
- DataRobot: エンドツーエンドのAIライフサイクルオーケストレーションと制御。
- NVIDIA: 加速されたGPUインフラストラクチャ、最適化されたソフトウェアフレームワーク、検証済みの設計、セキュアで高性能な基盤モデルとマイクロサービス。
- Deepwave: 組み込みGPUエッジ処理を備えたRFセンサー、セキュアなデータリンク、合理化されたオーケストレーションソフトウェア。
これらが一体となり、Radio Intelligence エージェントソリューションを強化し、エージェントワークフォースプラットフォーム上に構築されたエージェント型AIが、いかにしてリアルタイムのインテリジェンスをエッジにもたらすことができるかを実証しています。その結果、連邦政府のミッションにおけるデータ主権と自律的かつプロアクティブなインテリジェンスを実現するための、信頼できる本番環境対応の道筋が示されたのです。
RIAを使用してRFデータをリアルタイムの洞察に変える方法の詳細については、deepwave.ai/ria をご覧ください。