ユーティリティー業界における機械学習の活用事例

2019/08/01
執筆者:
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DataRobotのデータサイエンスアソシエイトの川越です。今回は、電力、ガス、水道などのユーティリティー業界における機械学習の活用事例についてお話します。

ユーティリティー業界の動向

昨今、ユーティリティー業界では規制緩和による自由競争の促進、人口減少による市場縮小、労働力の減少、インフラ設備の老朽化、省エネ・環境意識の高まりなど、様々な課題に直面しています。特に電力・ガス業界では小売全面自由化がスタートし、各社が顧客獲得や維持のために様々なサービスを展開し始めています。

日本のライフラインを守ってきたユーティリティー業界も、これからは一層の業務効率化に加え、新たなサービスを生み出して顧客に新しい価値を届けることが多く求められることでしょう。その一助とするために、ぜひ機械学習の活用を考えてみてください。

それでは実際の活用事例について見ていきましょう。

サプライチェーンと機械学習の活用シーン

下図にユーティリティー業界におけるサプライチェーンと機械学習の活用例をまとめました。電力、ガス、水道それぞれで細部は異なりますが、概ね、サプライチェーンは原料調達→生産→供給→販売で構成されており、上流部門から下流部門にかけてそれぞれで機械学習を活用できます。いくつかについて、詳しく見ていきましょう。

サプライチェーンと機械学習活用シーン

需要予測・市場価格予測

ユーティリティーの需要予測は、大きく分けて3つのシーンが考えられます。1つは原料調達部門において、原料価格や配船コストを抑制するために、中長期の需要や市場価格の予測を行うことです。例として、電力の需要予測について考えてみましょう。原油や液化天然ガス(LNG)などの原料価格そのものは世界情勢や為替レートに大きく左右される面があり、機械学習の力を借りてもなかなか予測できるものではありませんが、一方で国内あるいは地域内での電力需要や電力市場価格が予測できれば、それに応じた原料調達や配船の計画の精度を高めることができ、交渉力の強化や市場利益の創出、リスクヘッジ、コスト削減などに寄与することができます。

2つめは、生産部門や供給部門における需要予測です。例えば都市ガス会社では、その地域における中長期的のガス需要を予測し、ガス製造設備やパイプライン網の最適な設備投資計画を立てねばなりません。需要予測を見誤ると過剰な設備投資や、反対に供給能力の不足に繋がり、コスト増や保安面のリスクが高まることでしょう。

3つめは、小売部門です。もちろん、営業計画を立てるために原料調達部門や生産・供給部門と同じく中長期的な需要予測は欠かせません。それに加え、例えば自由化が進む電力の小売事業者は、電力系統の需給バランスを保つために30分ごとに電力需要およびその調達量の計画値を定めなくてはなりません。この需要計画や調達計画を見誤れば、不足分を高い価格で追加調達したり、余剰分を安い価格で売却したりすることにも繋がり、利益を減らす可能性が高まります。

時系列モデリングによるソリューション

このように、需要予測や市場価格の予測は、自由化や規制緩和が進み自由競争が促進されることでこれまで以上に重要になることでしょう。DataRobotは電力需要や電力市場価格のような時系列データにも対応し、素早く、高精度なモデルを多く作成することができます。

電力需要予測

時系列モデリングで重要なのは「派生特徴量」の作成です。時系列データは多くに自己相関があるため、過去のトレンドにおける差分値や平均・最大・最小などの統計値を派生させて特徴量とすることで精度向上ができますが、オリジナルのデータからこの派生特徴量を作成するにはデータサイエンティストの知識や技術が必要であり、かつ大変手間がかかります。

そこでDataRobotはこの派生特徴量の作成を自動化し、過去どのくらい遡って作成するかを設定するたけで、あらゆる派生特徴量を自動作成します。例えば下記の画面では、予測ポイントから過去168時間(7日間)まで遡ったデータを使用して派生特徴量を作るよう、DataRobotを設定しています。

時系列モデリング

下記の画面では、10月のある地域の電力需要(*1)の実測値(オレンジ)と予測値(青)の比較を示しています。一般的に10月は空調需要が少なく、電力需要は天候に影響されにくいため予測がしやすいことが知られておりますが、DataRobotでも高い予測精度を示しています。

スクリーンショット 2019-07-26 15.30.01

もちろん、夏や冬など、電力需要が天候に大きく左右される季節はこのように簡単に予測できるわけではないですし、また、工場の電力需要などの細かな単位での電力需要予測はより難しく、考慮すべきパラメータは予測したい対象によって様々であり、かつ複雑です。したがって、トライアンドエラーを繰り返してモデルの精度向上を図っていく必要があります。

高精度で自動化された時系列モデリングなら、ユーティリティー業界に特有の需要予測・価格予測の課題にスピーディーに取り組む事ができます。

設備の予知保全、異常検知

ライフラインを維持するユーティリティー業界にとって、発電設備やパイプライン等、ユーティリティーの製造・供給に関わる設備の保守は重要です。設備の予期せぬ故障はコスト増大に繋がるだけでなく、大きなトラブルともなればライフラインの安全・安定維持にも影響します。

昨今ではIoTを活用したイノベーションが進んでおり、ユーティリティー設備でも多くの種類の計測値を、細かい時間粒度で、大量に蓄積することができるようになっています。設備の故障データおよび振動、温度、音、圧力など様々なデータを学習することで、その設備自身の故障および残存耐用年数を予測することができるほか、機械学習モデルを見える化することで、故障要因の特定も可能となります。

特徴量のインパクト・特徴量ごとの作用で要因を見える化

例えば「特徴量のインパクト」では、特徴量の重要度を可視化することができます。設備につけられた多くのセンサデータから故障に影響する要因を、その重要度が大きい順に一目で確認することができます。下記の画面ではセンサNの圧力が、次いでセンサHの温度が故障に影響していることが分かります。

  • 特徴量のインパクト(機能の詳細説明はこちら):特徴量の重要度を可視化

特徴量のインパクト

また、「特徴量ごとの作用」で、各特徴量がどのように影響しているかを可視化することもできます。下記の画面では、センサHの温度が低いほど故障確率が高いことを示します。

  • 特徴量ごとの作用(機能の詳細説明はこちら

特徴量ごとの作用

これらに基づいたメンテナンスを事前に行うことで、設備の稼働率の向上を図ることができます。

異常検知モデルで故障予兆をとらえる

また、機械学習には正常な運転から外れたデータや見たことがない新たなデータを捉える「異常検知」という技術があります。これまでに一度も発生していない設備の故障についても、事前に異常として捉えることで未然に防ぐなどのアクションが取れるようになります。異常検知は「教師なし学習」と呼ばれるジャンルで、DataRobotでもこの異常検知に対応しています。下記の画面では、DataRobotが各データの異常値を算出しており、そのデータがどのくらい外れている値なのかを0 ~ 1の範囲で示してくれています。(1が最も異常値が高い。)

  • 異常検知モデル:データの外れ具合を異常値(Anomaly Score)として算出

異常検知モデル

また、「予測の説明」機能を用いることでなぜそのデータが異常値となったのかという理由も確認することができます。下記の画面で、例えば赤枠内1行目、異常値が「0.929」と高いデータに関しては、センサDの温度、センサGの圧力、センサHの温度がそれぞれ記載の値となっていることが理由で異常値が高いことを示してくれています。

  • 予測の説明:そのデータがなぜ異常値となったのかを説明

予測の説明

高精度な予測モデルや豊富な見える化は、ユーティリティーの生産・供給設備の運用を効率化・高度化し、一層の安定稼働を実現します。

新たな価値提供

自由化を迎えた電力・ガス業界にとっては、新たな価値提供は最も大きな課題かもしれません。小売全面自由化で地域独占供給が崩れた現在では、既存事業者・新規事業者の双方にとって、顧客の離脱抑制や新規獲得のためには料金の安さだけではなく、顧客に新しい価値を提供できるサービスの創出が必要不可欠になって来るでしょう。機械学習はそのような新たなサービスを生み出すためにも活用できます。

例えば、電力ではスマートメーターが普及し、30分ごとの細かい粒度で1件1件の電力使用量を取得することができます。また、IoT機器の普及が進むことで、電力消費機器の使用状況や室温・湿度といった室内環境など、これまでになかった新たなデータも大量に取得することができます。スマートフォンアプリを活用した顧客データの取得もますます重要になっていくことでしょう。これらのデータを学習し、例えば電力使用量の予測により省エネ行動をアドバイスする等、一層の付加価値を顧客に提供できるようになります。

また、太陽光発電、蓄電池、燃料電池などの分散型電源の価値が高まる中、これらを活用する新たなサービスも始まっており、今後広がっていくことが予想されます。例えば、日中に余る太陽光発電の電力を蓄電池に蓄えておき、夜間に使用することで電力料金を抑えることが可能ですが、最適に制御するためには、やはり機械学習による電力使用量の予測が重要です。単に電力やガスを提供するだけでなく、このような付加価値の高いサービスを同時に提供することは、顧客が電力会社・ガス会社を選ぶモチベーションの1つとなり得ます。

まとめ

小売全面自由化が始まった電力・ガスに見られるように、ユーティリティー業界では今後も一層の業務効率化・生産性向上に加え、顧客に対する新たな付加価値の創出が重要です。そのためにはIoT機器やスマートフォンの普及に応じてますます大量化していくデータを活用し、機械学習を用いたデータ・ドリブンの設備運用やサービス提供が欠かせません。今回はユーティリティー業界のサプライチェーンに沿ってそれぞれでの機械学習活用シーンについて紹介しました。DataRobotの圧倒的な精度とスピード、機械学習モデルを理解するための機能の豊富さ、そして自動化が、ユーティリティー業界での機械学習活用を実現します。


(*1) データは電力広域的運営推進機関ウェブサイト(https://www.occto.or.jp/index.html)で公開されているデータを加工し使用しています。

執筆者について
川越 雄介(Yusuke Kawagoe)
川越 雄介(Yusuke Kawagoe)

シニアデータサイエンティスト

DataRobot シニアデータサイエンティスト。2019年から DataRobot にて活動。10年以上、ガス会社で機械設備の技術開発に携わった経験を活かし、電気や機械が分かるデータサイエンティストとして、主に製造業・ユーティリティー企業様の AI 活用推進を支援している。現在も名古屋市に居住しており、中部地方や西日本のお客様を中心にサポート。

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