証券業界における機械学習の活用

2020/07/09
執筆者:
· 推定読書時間 3  分

DataRobotで証券分野のお客様を担当しているデータサイエンティストの香西です。

昨今、証券業界では規制緩和やグローバル化に伴い、スマホで株式投資ができる新たな FinTech サ ービスの誕生や異業種からの参入などが相次いでいます。その結果、既存のビジネスや枠組みを変革しなければいけないフェーズにきており、その変革の一つに機械学習の導入が挙げられます。

本稿では、まずこれまでの証券業界の変遷と課題を述べたのち、証券業界での機械学習の活用事例についてご紹介します。

証券業界のこれまでの変遷と課題

証券業界は顧客チャネルとサービス内容において大きく3つのフェーズで変遷しており、それぞれのフェーズの特徴と課題についてご紹介します。

証券業の始まりは対面営業が中心の証券1.0のフェーズです。総合証券とも言われ、各支店に営業担当者が配属され、対面で顧客の応対をします。そのため、顧客へのサポートが手厚く顧客接点が多い点が特徴です。一方で、顧客応対にかかる業務の非効率さや手数料の高さが課題として挙げられます。

次にオンライン上で取引が可能な証券2.0のフェーズです。ネット証券とも言われ、口座開設や商品の売買の処理がオンライン上で完結します。そのため証券1.0の時代に比べると手数料が安価な点や金融商品の種類の豊富さが特徴です。他方、処理がオンライン上で完結するが故に顧客接点の少なさやネット上で不特定多数の投資家が売買できるため、詐欺や不正、情報漏洩などのリスクの高さが課題として挙げられます。

最後にアプリ上で取引が可能な証券3.0のフェーズです。アプリ証券やフィンテック系証券とも言われ、

サービスの一部にロボアドなど新しいテクノロジーが組み込まれているのが特徴です。一方で、ネット証券と同様、セキュリティリスクの高さやアプリで取引ができる便利さとの引き換えに銘柄数や指値注文ができないといったサービスの利用制限が課題として挙げられます。

これまで証券1.0から3.0までのフェーズをご紹介してきましたが、いづれのフェーズにおいても①法人・個人部門、②市場部門、③管理・システム部門の基幹部門については概ね共通して存在します。次章以降で各部門ごとに機械学習の活用シーンと詳細のユースケースについてご紹介します。

法人・個人部門

法人・個人部門では顧客への営業に関する業務が中心となるため「いかに顧客理解を深化させるか」が非常に重要になってきます。そのため、機械学習を活用して顧客理解を促進するためのユースケースが数多く存在し、法人部門では企業の業績予測、個人部門では顧客のポテンシャル推定などがあります。今回はその中でも特に法人・個人部門で鉄板のユースケースとされる顧客ターゲティングについて詳細に紹介します。

2.1 顧客ターゲティング – 従来と機械学習を使ったビジネスフローの比較

既存の顧客ターゲティングでは顧客リストが作成されてから、各担当者の勘と経験によってターゲットを決めて DM や訪問営業を実施するといったフローが一般的です。そのため、既存のフローではターゲット選定に時間がかかり過ぎる点や各担当者のスキルに依存しすぎる点が課題となります。一方で DataRobot を活用した顧客ターゲティングでは過去の成約した or しなかったデータを用いて優良顧客を分類するモデルを活用します。そのため、営業担当者はその分類モデルによって顧客ごとに算出された予測確率とその予測確率に至った説明が付帯する顧客リストを作成し、それに基づいて DM や訪問営業を実施することができます。その結果、ターゲットの選定に時間がかかることも各担当者のスキルに依存しない顧客ターゲティングが実現可能になります。

2.2 顧客ターゲティング – ターゲット対象とモデリングの多様化の実現

ターゲティングにおいて実施するターゲットの対象とモデリングの組み合わせは多岐に渡ります。新規獲得数を増やしたい場合は新規顧客や見込顧客がターゲットになりますし、口座解約数を減らしたい場合は大口出金顧客や口座解約見込顧客がターゲットになります。これらの各対象と各モデリングをスクラッチで作るのは非常に手間がかかりますが、DataRobot を使うことでデータセットを大きく変えることなくターゲットを変えるだけで手早くモデル構築が可能になるため、幅広い対象のターゲティングとモデリングが実現可能になります。

2.3 顧客ターゲティング – 必要なデータと実運用までのイメージ

法人・個人部門では顧客属性や取引状況、サービスの利用状況等のデータが蓄積されている場合が多いです。それらのデータと予測したいターゲットフラグ(例:過去半年以内に成約した場合は1、それ以外は0)を結合して DataRobot に投入すると、予測確率として結果を得ることができます。これらの確率を用いることで予測確率が一定以上の顧客に対して効率的に営業訪問や DM 送付を実施することができます。

市場部門

市場部門では株式関連商品を中心とした資本調達に関する業務が中心となるため「市況の先読み」や「価格/金利の最適化」が重要なミッションとなります。そのため、各経済指標のベースラインの予測や為替/金利の先物レートの予測といったユースケースがあります。今回はその中でも RFQ 注文時の価格/金利のダイナミックプライシングのユースケースについて詳しくご紹介します。

3.1   RFQとダイナミックプライシングとは

RFQ とダイナミックプライシングについては少し聞きなれない語句のため簡単に解説します。

RFQ とは Request for Quotation の略で主に機関投資家が売買を希望する銘柄・数量等を多数のマーケットメイカーに打診し、個別に提示された価格で売買をすることができる取引制度のことです。マーケットメイカーは機関投資家からの希望と過去の勝率や収益から適切な価格を設定し、提示する必要があります。

次にダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、需要と供給のバランスに応じてリアルタイムに価格を設定することです。身近な例だと、飛行機のチケットやホテルなどの宿泊施設の価格設定に使われています。搭乗日や宿泊日よりもかなり前(需要が少ないとき)に予約するとチケット代が安く、間近(需要が大きいとき)になって予約するとチケット代が高くなるという経験が1度はあると思いますが、これらはダイナミックプライシングによるものです。ダイナミックプライシングによって、需要が高い時期には商品の品質を変えることなく高価で売ることができ、需要が低い時期には安価で売ることができます。そのため、収益や在庫の最大化といったメリットが企業側に期待できます。一方で、市場の需要と大きく乖離しすぎると消費者への不信感へと繋がったり、収益が減少したりするといったデメリットがあります。

3.2  従来と機械学習を使ったビジネスフローの比較

既存の RFQ の業務では顧客から注文を受け人力で過去取引の調査を行い、勝率や収益から価格を算出し、顧客へ注文内容を返答するといったフローが一般的です。しかし、過去取引の調査に時間がかかる点や担当者の力量に依存する点が課題です。一方で、DataRobot を活用した場合には過去取引の状況から勝率を予測し、勝率と収益が最適となる価格を選定します。そのため、これまで過去取引の調査や価格選定にかかっていた工数の削減や顧客満足度の向上が実現可能になります。

3.3 必要なデータと実運用までのイメージ

市場部門では取引属性や顧客情報、市況状況等のデータが蓄積されている場合が多いです。それらのデータとターゲットとして過去の勝敗フラグをDataRobotに投入すると、勝率を結果として得ることができます。その後、「特徴量ごとの作用」の部分依存を用いて勝率と収益が最適になる価格を選定することが可能になります。部分依存については以下のURLの記事をご参照下さい。

https://blog.datarobot.com/jp/2018/02/15/modelxray

管理・システム編

管理・システム部門では IT インフラの管理やコンプライアンス統括に関する業務が中心となるため「不正や異常のいち早い検知」が重要なミッションとなります。そのため、システムの異常検知や証拠金/信用取引の査定といったユースケースがあります。今回はその中でも不正取引検知について詳しくご紹介します。

4.1 不正取引検知 – 従来と機械学習を使ったビジネスフローの比較

既存の不正取引検知の業務ではルールによって不正ログを検知し、その検出ログを担当者が総当たりで判定するといったフローが一般的です。しかし、検出ログは膨大である場合が多く、時間と人員コストがかかる点が課題です。一方でDataRobot を活用した場合には不正ログを検知した後に検出ログに対してリスクスコアリングを実施し、検出すべきログの優先順位をつけます。その結果、担当者が効率的に不正を判定することが可能になります。

4.2 不正取引検知 – 必要なデータと実運用までのイメージ

管理・システム部門では取引属性や顧客情報、顧客が売買時のデバイス状況等のデータが蓄積されている場合が多いです。それらのデータとターゲットとして過去の不正フラグを DataRobot に投入すると、不正スコアを確率として得ることができます。それらの不正スコアが低い検出ログについては判定が不要になり、判定すべき検出ログの総数が減ります。その結果、誤って不正と判断する数の割合を減らすことが可能になります。またこれらを監視モニターやアラートメールのシステムと連携することで検知のスピードもあげることができます。

まとめ

ここまで法人・個人部門、市場部門、管理・システム部門において、機械学習の活用とユースケースの詳細について説明してきました。DataRobot 活用することで証券会社のあらゆる部署の業務に AI を活用し、既存のビジネスを変革することや新たな FinTech サービスをさらに高度化することができます。

証券分野における AI 活用にご興味がある方は是非ご相談下さい。

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執筆者について
香西 哲弥(Tetsuya Kozai)
香西 哲弥(Tetsuya Kozai)

データサイエンティスト

DataRobot データサイエンティストとして、主に金融業界のお客さまの AI 活用/推進をご支援。メガバンクと外資系コンサルティングファームでの勤務を経て現職。これまで、AI 導入に向けた組織改革から数理モデリングの技術支援、実運用化支援まで幅広い業務に従事。

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