製造業におけるコロナウイルスの影響

「100年に一度の大変革」を合言葉に自動車業界では、ここ数年来、自ら改革に努めて来ました。今回の新型コロナウイルス 感染症(COVID-19)の影響は、業種・業態を問わず、生産・消費活動のみならず、政治、経済、社会などあらゆるものに及ぼうとしています。ここにおいて「100年に一度の大変革」は、全ての企業のアジェンダとなっているのではないでしょうか。しかも、その対応は今日、明日を争うものかもしれません。

本ブログでは、DataRobot の製造業担当チームが COVID-19 の影響をまとめ、これまで  AI を活用していた分野における影響と対応、今こそチャレンジする価値のある AI 活用領域について紹介していきます。また、COVID-19 によって起こる市場の変容が今後の製造業の活動に与える影響と、アフターコロナで AI を活用して成長を手に入れる可能性を述べていきます。

 

製造業界全体への影響

海外にみられるロックダウン(都市封鎖)や移動制限などにより、全世界でほぼ一斉に多くの製品需要が消滅しました。その対応もしくは、部品・部材の供給不安で、いくつかの製造業では工場の操業停止に追い込まれています。根本的に解決(ワクチンや治療薬の開発)するまでは、COVID-19 のリスクは無くならず、ある研究では、この状態は2022年まで続くとも報告しています。

以下の図は、製造業のバリューチェーンの中で、一般的な AI の活用事例を示したものです。それぞれの機能毎に COVID-19 の影響下で見直すべきテーマ、取り掛かるべきテーマを見ていきたいと思います。

 

営業・マーケティング

このカテゴリでは製品の需要予測が筆頭ユースケースでしょう。COVID-19 によって明らかな影響を受けているのは売上です。ロックダウン(都市封鎖)、もしくは経済活動の自粛で、下がる売上もあれば、逆にネットショッピングや住宅街での消費が増加し、上がるものもあるかもしれません。機械学習は過去のパターンを学習し、そのモデルが未来を予測するため、現在の激しい変動の中での利用は一筋縄ではいきません。既存のモデルの継続利用は、大きなリスクが伴う場合もあります。モデルの見直しについて、ご興味のある方は、こちら(大変動下での機械学習モデルへの対処)をご参照ください。

一方で、海外の状況を見てみると、段階的に経済活動を再開している国も見られます。この場合、国により、さらに地域により、徐々に通常活動に戻すということです。しかし、一度 COVID-19 の封じ込めに成功したかに見えるところも、時間を置いて第2波の拡散に見舞われるケースも出てきています。先に述べたとおり、このダッチロールのような状況は、長期化する可能性も含めて対策を考える必要がありそうです。この状況下では需要予測のモデルも、地域に応じて、そしてその時の経済(自粛)状況に応じて、複数のモデルを作成、もしくは入れ替える必要性が出てきます。

マーケティングで扱われている AI テーマも、同様に再検討が必要になる場合があるでしょう。また、新たなチャネルでの営業活動も見逃せません。現在、店舗で購入しない代わりに、その消費行動がネット上へ移動していると言われます。また、それは B2C に限らず、B2B の世界でも起こっていることです。営業や打ち合わせ、契約の締結、そして検収に至るまで、全てリモート(インターネット)で行われるようになるでしょう。この新しいチャネルのメリットは、全てがデータ化されることです。そのデータを活用することで、より有効なターゲットの選定、アプローチの仕方が可能になります。つまり、AI を活用した営業ターゲティング、リードスコアリングなどは、その販売を促進する強力なツールとなります。

見直すべき AI テーマ

・需要予測

・顧客ターゲティング

・リードスコアリング

今取り掛かるべき AI テーマ

・需要予測(複数モデリングとその切り替え運用)

・顧客ターゲティング(ネットデータ活用)

・リードスコアリング(ネットデータ活用)

サプライチェーン

広範囲に影響を与えている COVID-19 は、サプライチェーン全体の機能を脅かしていると言えます。原材料調達をする1次、2次産業では現場での働き手を失い、それらを必要なところに運ぶロジスティクス機能が減衰し、工場では製造必要な物資の調達が危ぶまれるでしょう。また、生産現場では人の密集が避けられないケースも多くあり、完全自動による無人化がされない限り、今後感染者の発生により、突如長期間の稼働停止のリスクを背負うことになります。

このカテゴリにおける AI テーマとしては、物量予測があります。倉庫などでのオペレーションリソースを最適化するために、向こう数週間の物量を予測しています。COVID-19 の影響では、物量が増えるにしても、減るにしても初めての振れ幅になるケースがあるため、先の需要予測と同じ対応が必要になってくるでしょう。

また、強靭なサプライチェーンは、まさに日系製造業の御家芸といってもよいコアコンピテンスの1つです。しかしながら、今回の突然且つ先の見えない操業停止において、特に中小の製造業にとっては存続の危機に立たされている可能性もあります。いわゆるキーディバイスを製造しているメーカーがある日突然倒産し、製品製造が立ち行かなくなるリスクもあると考えるべきでしょう。大手の製造業の中には、リスクマネジメントを専門に行う部隊が、それらのリスクを日々モニタリングしていると思いますが、今回の COVID-19 の影響下ではその調査範囲はさらに広げるべきでしょう。そして、優先順位をつけての対応が迫られるはずです。その際にもAIによる倒産リスクスコアリングは、膨大なサプライヤー網を維持するために活躍するでしょう。こちらは金融業界におけるテーマとしてもよく取り扱われているもので、詳しくはこちらのブログを参照ください。

一方で、この COVID-19 の影響が長期化し、人、ビジネスの行動変容が起きると、ロジスティクス機能については、さらに無人化が進むと考えるべきでしょう。属人的なオペレーションが残っている限り、この感染症によるリスクは避けられないからです。これまでも自動運転やオペレーションの最適化などAIのテーマが数多くある分野で、今後、さらなる活用が促進されるはずです。

見直すべき AI テーマ

・ロジスティクスの物量予測

・サプライヤ網のストレスチェック

・企業倒産予測

今取り掛かるべき AI テーマ

・自動化オペレーション(倉庫、配送、リソース最適化)

 

R&D

このカテゴリにおいて、COVID-19 の影響が出るテーマは、それほど多くはないかもしれません。しかし今後、人と人の接触を避けるべし、という方向性では、よりバーチャルな活動に軸足をおくようになるかもしれません。例えば、ある部材を購入する際に、多くのサプライヤーと直接会い、見積もりをとるのではなく、過去の実績から希望のスペック、コストを提供出来るサプライヤーを AI によって推測するということが可能です。また、リモートでの作業を推進するためには、試作レス、実験レスといった、より高効率のオペレーションに、AI の活用を検討する機会を増やす必要に迫られます。つまり、実際に試作品を作って、実験を行う機会を減らす代わりに、AI によってシミュレーションを行い、判断することを増やすのです。

また、後ほどスマートプロダクトのパートで詳述しますが、今後、製品を通したエンドユーザからのデータのインプットが増えてくるはずです。そのデータ活用や、そもそも自社製品のスマートプロダクト化の機能研究は、R&D の大きなミッションになってくるでしょう。そして、データ分析とそれによる製品のアップデートには、AI の活用が有効手段となってくるはずです。

今取り掛かるべき AI テーマ

・性能/特性予測、シミュレーション

・コスト予測、シミュレーション

・スマートプロダクトのデータ分析

 

製造

このカテゴリでは、今まさに操業停止、もしくは需要の急増による高稼働という非通常の状況に見舞われていると思います。予兆保全などで活用される AI は、稼働状況が変わった場合は、見直しが必要になるケースもあるでしょう。再学習のためのデータが必要となるので、今の非通常稼働のデータ収集はすぐにでも始める必要があります。

また、R&D と同じ文脈で、人の接触、密集を避けるという意味では、AI 活用が1つのソリューションになり得ます。DataRobot の機械学習モデルがアウトプットするのは予測値だけではなく、その出力の理由も同時に提示します。例えば、不良品検知では、不良品となる確率と、その出力に寄与した特徴量(設備の設定値、センサーデータなど)を強い順に出力します。実際に、それらを参考に改善をすることで、人海戦術による要因調査(人と人の接触、密集)の工数を下げることに成功しています。安定稼働する生産現場の実現に向けて、AI 活用はすぐにでも着手すべきであると言えます。

さらに、多くの製造業で海外に工場を持っていることは珍しいことではありません。その多くの現場では、日本人のエンジニアが現地に出張・駐在し、製品や仕事の品質を担保しているのが現実ではないでしょうか。COVID-19 の影響で、その往来が滞り、また、これを乗り越えた後でも、これまでのような頻繁な人の往来は困難になると考える必要がありそうです。

AIの一つのメリットとしては、インターネットを通して遠隔地にも展開し、その機能を享受できることにあります。弊社のお客様の中にも、実際に海外の工場へ日本で作ったモデルを展開し、その品質チェック、および要因分析に活用しているケースが見られます。具体的には、現地の生産工程からの情報を収集し、日本においてモデリングを実施する。そのモデルを現地の品質管理工程に展開し、実際に生産ラインが稼働している中で活用する。日本において定期的にモデルの精度をモニタリングしつつ、このモデルの運用管理を行なっています。

このような先進的な仕組みを導入している企業では、現在の COVID-19 の状況下でも、その影響は限定的になり、この状況が長期化する場合には、さらに大きなアドバンテージを享受することになります。この AI を通したオペレーションのグローバル展開が、今後の製造業にとって、生産体制の維持、さらには強化のために必須のケイパビリティとなってくるでしょう。

見直すべき AI テーマ

・予兆保全

今取り掛かるべき AI テーマ

・要因分析(品質検査、設備不具合検知、異常検知)

・AI によるリモート運用

 

アフターケア

このカテゴリでは製品の寿命予測、故障診断など、現場に行かずとも AI に判断させることは、昨今の IoT 活用が促進される中で、もはや珍しいことではありません。もし、利用環境に変化がある製品は、その故障診断の AI の見直しを実施する必要があるかもしれません。

また、この COVID-19 は、これら AI の活用をさらに推進することになるはずです。つまり、人と人との接触を少なくし、訪問修理も効率的に行うというリモート診断機能は必須のものとなり、搭載されていない製品は、今後シェアを失うリスクがあると考えた方が良いでしょう。

見直すべき AI テーマ

・製品寿命予測

・故障診断

今取り掛かるべき AI テーマ

・製品寿命予測(新規)

・故障診断(新規)

 

スマートプロダクト

スマートプロダクトの定義にはいろいろありますが、ここでは製品にネット接続の機能があり、その利用状況に合わせて、機能アップデートやサービスを提供する製品を指します。例としては、スマートスピーカーなどが挙げられますが、あまり世間一般に普及しているものではあるとは言えません。

COVID-19 の影響は、この状況を変える可能性があるかもしれません。ソーシャルディスタンスが叫ばれ、人と人との直接のコミュニケーションは忌避されていますが、その代わりとして、リモートミーティングの活用や、情報収集のためのSNSの活用(2日間で2400万人からアンケート回収)などが、急速に普及しています。先日から解禁になったオンライン受診など、おそらく COVID-19 への対策として個人がネット経由でデータを提供し、そのデータに基づいて遠隔での診察、治療するといったことも広く一般的になるでしょう。ここで注目すべきことは、個人からのデータ収集と、それに基づいて個人がサービスを受けるということを、多くの人が体験するこということです。これまで、その様な遠隔サービスは心理的な抵抗感から、幅広く受け入れられてきたとは言い難かったと思います。しかし、今回の COVID-19 を経た世界では、リモートでのやり取りは市民権を得たものとなっているでしょう。

製品は、顧客との重要なタッチポイントです。そして、今回の COVID-19 の影響から、人と人(例えば営業、メンテナンスサービス、コンサルティングなど)の接触が限りなく少なくなる中、この製品を通しての直接のコミュニケーションの重要性が高まります。車で言えば、顧客(ドライバー)一人ひとりの乗り方、健康状態、社内で消費するエンターテイメントなどを把握し、より最適・快適なドライビング体験のために、車のスペックやその他サービスを提供する。既に実現されているものもありますが、この様な機能があらゆる製品に必要になり、顧客もそれを受け入れ活用する市場が生まれつつあるのではないでしょうか。

そして、この機能において AI が最も有効な手段になります。何万、何十万という製品・顧客からデータが送信され、それらをリアルタイムで分析し、それぞれの顧客にパーソナライズされた形でサービスを提案・提供する。この製品のスマートプロダクト化こそ、製造業にとって今こそ取り掛かるべき AI テーマの一つでしょう。

今取り掛かるべき AI テーマ

・製品のスマートプロダクト化

 

アフターコロナの時代に向けて

我々が COVID-19 を克服する日がいつかは来るでしょう。ただ、そのときのビジネス環境は COVID-19 前とは全く変わったものになっているでしょう。そして、その変わった環境の中でも、確実に活躍の場を広げているのが AI であることは間違いありません。

「最も強く、最も賢い種が生き残るのではない。変化に最も適応したものが生き残るのだ。」生物学者ダーウィンの言葉が、今ほど私たちの心に響いたことはないかもしれません。AI も所詮はツールでしかありません。それを活用するために、変わる意志を持ち、それを実行することが、この未曾有の危機をチャンスに変えることにつながるはずです。そして、DataRobot がその変化の一助になれば幸いです。

 

バーチャルカンファレンス
DataRobot AI Experience Japan

変化の時代にAIのインパクトは加速する

執筆者について
Hikaru Fuji
藤井 光(Hikaru Fujii)

AI サクセスマネージャー

DataRobot の AI サクセスマネージャー。IT コンサルタントとして20年の経験を持ち、金融、小売、通信、製造業のシステム構築プロジェクトに従事。特にここ10年は製造業分野に特化しており、主に欧州と日本で製造業のデジタル化と IIoT ソリューションの導入を支援している。2017年に DataRobot に製造業 GM として参画。グローバルの製造業において DataRobot 利活用を支援。ドイツ、アメリカ、タイ、シンガポールそして日本での展示会の企画、基調講演などを行う。2019年より AI サクセスマネジャーとして日本の製造業の現場に密着した導入支援を行う。

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山本 祐也(Yuya Yamamoto)

データサイエンティスト

DataRobot データサイエンティスト。Kaggle Master、博士 (工学)。東京大学大学院工学系研究科にて有機無機複合材料の研究で博士号を取得。学位取得後、大手化学メーカーにて液晶・タッチパネル関連先端化学材料の研究開発に従事。その後、大手食品メーカーで機械学習を用いた食品パッケージに関する予測モデリングと最適化に取り組むなど、BtB と BtC いずれにも深い経験を有する。余暇では機械学習コンペティションの Kaggle に精力的に取り組んでおり、 2020年現在も現役で活躍している。

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Yusuke Kawagoe
川越 雄介(Yusuke Kawagoe)

データサイエンティスト

DataRobot データサイエンティスト。2019年から DataRobot にて活動。10年以上、ガス会社で機械設備の技術開発に携わった経験を活かし、電気や機械が分かるデータサイエンティストとして、主に製造業・ユーティリティー企業様の AI 活用推進を支援している。現在も名古屋市に居住しており、中部地方や西日本のお客様を中心にサポート。

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