2024年8月にクレディセゾンより、DataRobotの活用事例として『AI 活用によりクレジットカード最短 0 秒審査を実現~申込手続における DX でお客様の入会体験を向上~』が発表されました。この取り組みによって、申込者の審査の必要性に応じて申込時の入力項目が最適化されます。必要性の低いお客さまは、よりシンプルな入会体験を享受でき、必要性の高いお客さまはより適切なリスク評価がされることで、エンドユーザーの顧客満足度を向上させました。
クレディセゾンのビジネスにとっても、クレジットカード発行枚数の増加によるトップラインの貢献、およびより精緻なリスク評価による貸倒引当金の低減が同時に実現する取り組みです。
ここからは、本プロジェクトにおけるクレディセゾンの取り組み、および実現に貢献したDataRobotの提供ソリューションについて解説します。
ビジネス課題 – 与信モデル更改とその特性
与信モデルは、ビジネスインパクトのために高い精度が期待されるだけでなく、社内でなぜそのような予測になったのかといったモデルの説明責任も求められます。また、運用時も開発時の精度を担保し続け、社内報告や監査対応も必須になります。このようにAIモデルとビジネスとシステムの3つの観点からプロジェクトを推進する必要があり、社内のステークホルダーも複雑で、決して簡単なプロジェクトではありません。
本プロジェクトは、エンドユーザーの入会体験の向上を目的とし、与信モデルの開発担当者だけでなく、入会担当者、システム部門や社外の常駐パートナーといった多様性のあるチームで推進されました。 外注もしくは社内のスクラッチ開発で与信モデルを開発しようとすると、通常半年から1年以上の時間がかかる場合が多々あります。外注の場合は社内の説明責任のしにくさに苦労し、社内のスクラッチ開発の場合はその時間を確保しにくくなるリスクがあります。
提供ソリューションと効果 – 与信プロジェクトの全面的なサポートとビジネス貢献
本プロジェクトでは、説明責任、システム連携、運用及びガバナンスの課題を解決する、以下の機能を活用しました。
それらを実現するために重要なDataRobotの機能は、以下の3つです。
- モデル・リスク管理に関する原則の学習とDataRobotによる実現方法
- AutoMLによる高速なモデリング、およびインサイト系機能
- スコアリングコードによるモデル実装
クレディセゾンは、DataRobotのAutoML機能を活用し、工数を大幅に削減し、精度改善によるより大きなビジネスインパクトを目指し、インサイト系機能によって社内での説明責任を果たしました。DataRobotのAutoML機能では、コーディング不要でごく短時間で一度に二桁以上のモデルを自動で開発し、その中から最も精度の高いモデルを選ぶことが可能です。また、係数が把握できるモデルや(ブログ『一般化加法モデルと格付表』)、SHAPのようにモデルの説明をする機能(ブログ『SHAP を用いて機械学習モデルを説明する』)もあり、社内報告や監査対応も容易になります。
モデルの推論については、審査システムの可用性や処理速度向上のために、DataRobotモデルを外部環境で利用することを検討していました。予測API、Jar形式のスコアリングコード、Docker形式のポータブル予測サーバといった実装手段を比較検討した結果、既存システムへの組み込みが容易なスコアリングコードを採用しました。
金融庁より2021年にアナウンスされたモデル・リスク管理に関する原則(DataRobot社の解説ブログ Part1とPart2)を踏まえて、信頼性や効率性の高いモデル運用を目指しました。運用時の自動モニタリングの結果から、どのように再学習を決めるべきか、再トレーニング機能やチャレンジャーモデルのような自動化機能も学習しました。
DataRobot社は製品提供のみならず、業界の具体事例や伴走型の支援も提供しました。例えば、有望な特徴量のアイディアや作り込み、Reject Inferenceという否決データを学習データに含む議論、再学習も前提とした運用時フローの確立等が挙げられます。
その結果、カード申込時にエンドユーザーが入力する項目を従来の最大 3 割超削減することができました。また、カード申込後、業界初(リリース時点:クレディセゾン調べ)となる最短 0 秒でのカード審査が可能となり、特許の出願に至りました。
クレディセゾン カスタマーサクセス事業部 クレジットテックセンターの長谷川 祐介氏は次のように述べています。
「現在様々なAutoMLツールが世の中にはありますが、DataRobotほどビジネスサイドユーザーが使いやすいツールはないと思います。具体的に恩恵がある機能を挙げると、判断に必要な各種統計情報の描写/コンプライアンスドキュメントの自動生成/shap値の出力/ドリフト検知機能などです。これらの機能が当たり前のように高度に提供されているおかげで、統計指標上よいモデルを作ることにとどまらず、ビジネスインパクトや関係者への説明性も考慮したうえでも満足のいくモデルを作成することができました」
本プロジェクトのまとめと今後の展望
DataRobotは、与信系のプロジェクトに関する機能や支援を網羅的にサポートしています。その結果、エンドユーザーの入会体験の向上だけでなく、クレディセゾンに対するカードの発行枚数の増加によるトップラインへの貢献や貸倒引当金の低減への貢献を目指します。
2022年のCSDX戦略資料記載のように、クレディセゾンにおいて、初期与信だけでなく、途上与信、架電効率、各種ターゲティング等、様々な分野において、DataRobotを活用した業務の高度化がますます進展すると期待されます。DataRobotは、今後も金融機関のイノベーションを促進し、エンドユーザーにとってより公平な審査に貢献していきます。
Related posts
See other posts in 業界事例
複雑化する意思決定プロセスにおいて、適切なインサイトを迅速に得ることは、ビジネスリーダーにとって不可欠です。しかし、従来のアナリティクス手法や多忙を極めるデータチームの存在が、このプロセスを遅延させています。また、AI導入の現場では、長期にわたる実装サイクルやシステム統合の課題が、進捗を妨げています。 実際、AI導入の責任者の66%が、企業目標に沿ったAIソリューションを展開するための適切なツールが不足していると回答しています。特に、7ヶ月以上に及ぶ導入期間やシステム統合の困難さは、経営層の期待に応える上での大きな障壁となっています。 生成AIとAIエージェントは、これらの課題を解決する可能性を秘めていますが、導入は依然として容易ではありません。ビジネスリーダーの77%が、競争における後れを懸念し、チームに導入の加速を強く求めています。 この状況を打開するためには、より複雑なツールへの投資ではなく、即戦力となる構成済みのAIエージェントアプリケーションの導入が最も効果的です。


こんにちは、DataRobotデータサイエンティストの長野です。普段はDataRobotでデータサイエンティストとして製造業・ヘルスケア業界のお客様を担当しています。技術面では生成AIプロジェクトのリードを担当しています。本記事では、DataRobotのBYOLLM(Bring Your Own LLM)と呼ばれる仕組みを用いて、Hugging Face Hubから取得したLLMをDataRobot環境にホスティングする方法をご紹介します。